妓生のファン・ジニ(黄真伊)/朝鮮王朝の職業人列伝2

青年の悲劇

天から二物も三物も授かったファン・ジニ。そんな彼女がなぜ妓生になったのか。正確な答えを知る術はないが、ひとつの逸話に注目したい。
優れた美貌と知性を持つファン・ジニの輝きは、成長するにつれて一段と増していき、彼女を妻にしたいという男性が後を絶たなかった。
しかし、ファン・ジニを上流階級の妻にしようと育てた母親は、そういった男性たちの誘いをことごとく断り続けていた。
ある日、一人の平凡な青年がファン・ジニに恋をしてしまった。しかし、何一つ誇れるものがなかった青年には、彼女はあまりに高嶺の花だった。思いを伝えることすらできない青年は、ついには自ら命を落としてしまう。




哀れんだ村人たちは青年の遺体を棺に入れて弔いの行進を始めた。ここで奇妙な出来事が起こる。村人たちがファン・ジニの家の前を通ると、青年の棺を載せた台車が動かくなってしまったのだ。村人たちは口を揃えて、青年の悲劇をあわれんだ。
家の前が騒々しいことに気付いたファン・ジニ。事情を聞いた彼女は自分のチマとチョゴリを棺にそっとかぶせた。すると、ピクリとも動かなかった台車がようやく動き出したという。
ファン・ジニはこの一件をきっかけに妓生になったと噂された。「もうこれ以上、自ら命を絶つ人を増やさないため」だったそうだ。
当時、「一度妓生に身を落としたらその記録を消せない」ということを彼女が知らないはずがなかった。青年の死は彼女の運命を大きく動かしたのだ。(ページ3に続く)

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