王になるべきではなかった
仁祖は遠くを見る目で過去を振り返った。
「考えてみたまえ。余は清に屈辱的な謝罪をさせられたのだ。怨みが強く残っていた。かならず復讐してやろうと思っていたのに、大事な世子が清にかぶれてしまったのだから腹も立つだろう」
「そこがあなたの愚かなところなんです。昭顕世子は、清で西洋の宣教師とも交流を深めて先進の文明を身につけてきました。それを朝鮮王朝に生かして、国自体を大きく変えようと意欲的だったんです。それなのに、あなたは昭顕世子を毒殺したじゃないですか」
「人聞きの悪いことを言わないでくれ。なぜ余が世子を毒殺しなければならない」
「あなたの側室だった趙氏(チョシ)の実家に出入りしている医師は、鍼の名人でした。その医師が毒針を使って昭顕世子を毒殺したというのは、今や韓国でもみんな知っている事実なんですよ」
「そこまで知られていたのか。あれは余の指示ではなかった。側室の趙氏が勝手にやったことなんだ。なにしろ、趙氏は昭顕世子の夫婦を死ぬほど嫌っていたからな。しかし、趙氏が我が息子まで毒殺するとは思っていなかった」
「側室が独断でやったとしても、責任はすべて国王にあると思いますよ。あのとき、昭顕世子が先進の文明を朝鮮王朝でも生かしていたら、国が絶対に変わっていたはずです。それを邪魔したのがあなたであり、趙氏なんですよ」
「そう言われてしまえば仕方がない。それも含めて、余はこの三田渡で反省の日々を過ごしている」
「本当に愚かな王でした。しかし、今ここで反省の日々を過ごしている姿は悲しいとしか言いようがありません。やはり、王になるべきではなかったんです。光海君を追放しなければ良かった。それがすべての根本なんですよ」
「そうかもしれない……」
ため息をついた仁祖は再び漢江の流れに向かって頭を下げて必死に拝み始めた。反省の日々は永遠に続くのだろう。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
記事提供:「歴史カン・ヒボン」http://kanhibon.com/
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